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2016年08月08日

【インタビュー】確かな自信と誇り(ワールドサッカーキング 2009年7月16日号掲載)

Eintracht Frankfurt
アイントラハト・フランクフルト
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初めて日の丸を背負ってピッチに立ったのは、2006年2月のことだ。それから10年半――。今年6月に行われた「キリンカップサッカー2016」を経て、長谷部誠の日本代表キャップ数は99に達した。


『サッカーキング』では、間もなく訪れる長谷部誠の日本代表100キャップを祝うべく、そのキャリアを振り返る特集を展開する。ここでは、『ワールドサッカーキング』が2009年7月に行ったインタビューを紹介しよう。


【長谷部誠はその時】ヴォルフスブルクで栄冠を手にして

プロキャリアをスタートさせた浦和レッズを離れ、長谷部誠は2008年1月にドイツへと渡った。ウィンターブレイク中の加入ながら、2008-09シーズンは16試合に出場。チームの5位入り、UEFAカップ出場権獲得に貢献した。


翌09-10シーズン、終盤こそ左ひざ手術によって戦列を離れたが、シーズンを通してチームの主軸としてピッチに立ち続け、日本人として史上2人目となるブンデスリーガ制覇を果たした。
マイスターシャーレを掲げた感想を問われると、「相当重かったです」。長谷部はそう言って笑った。そこには、得も言われぬ充実感や喜び、そして誇りが感じられた。渡独からわずか1年半でドイツ中にその名を知らしめた25歳の青年は、その時、何を語ったのか。彼の言葉を振り返ろう。

インタビュー・文=岩本義弘
[ワールドサッカーキング 2009年7月16日号掲載]


――まずはブンデスリーガ優勝を果たした瞬間の気持ちから聞かせてください。

長谷部 浦和時代にJリーグやアジアチャンピオンズリーグで優勝出来た時も、すごくうれしかったんですが、その時と比べても今回の優勝は特別ですね。1年半前に僕が来た頃には残留争いをしていたようなチームが、今シーズンはUEFAカップに出場して、ブンデスリーガでも優勝……。正直、優勝した今でも、信じられない気持ちでいっぱいです。


――マイスターシャーレを掲げた瞬間は?

長谷部 みんなが持ちたがって、奪い合いみたいになっていたので、「これは無理かな」と思ったんですが、両親や事務所の人たち、カメラマンから「絶対に持ってくれ」と言われていたので、半ば強引に奪って持ちました。感想ですか? 相当重かったですね(笑)。


――優勝を意識し始めたのはいつ頃から?

長谷部 ウインターブレイク明けに1試合引き分けた後、10連勝したんですが、その連勝中、確か8連勝したあたりで首位に立った頃ですね。この勢いだったら本当に優勝出来るんじゃないかと、個人的には感じていました。


――ただ、そんな優勝争いの真っただ中で、左ひざ手術(遊離軟骨の除去手術)のため、一時期、戦列を離れました。大事な時期に戦列を離れるのは不安だったのでは?

長谷部 手術と言っても大掛かりなものではなかったですし、1カ月以内には復帰出来ると聞いていたので、それほど不安はありませんでした。ただ、自分がチームを離れている時にチームの調子がすごく良かったので、多少の焦りはありましたね。加えて、リハビリ中もなかなか痛みが取れない時期が続いたので……。もっとも、痛みが和らいでからは世界一ハードな(フェリックス)マガト監督のリハビリメニューのおかげで、体にキレが戻ってきたこともあって「この感じなら、うまくいけば最後のほうでは絡めるかな」とは思っていました。


――マガト監督の練習は、やはり相当厳しいみたいですね。

長谷部 想像以上でしたね(苦笑)。ひたすら走らされるし、筋トレもみっちりやる。気持ち的にすごく追い込まれて精神的にかなり鍛えられましたよ。


――そして、優勝に向けての大一番となった第32節ドルトムント戦で復帰を果たしました。前節、シュトゥットガルトに敗れ(1─4)、2位のバイエルンに勝ち点で並ばれた状況で、相手は7連勝中のドルトムント。かなりプレッシャーの掛かる状況だったのでは?

長谷部 確かに、シュトゥットガルト戦の後はさすがにチームの雰囲気は良くなかったですね。ただ、その直後に合宿をして、マガト監督と選手で悪かったシーンの映像を見ながら、すごく長いミーティングをやったんです。それに選手同士でも意見をぶつけ合ったりもしました。その合宿のおかげでチーム全員が同じ方向を向くことが出来、それがドルトムント戦の完勝(3─0)につながったんだと思います。


――続く第33節ハノーファー戦では、2アシストの活躍で5─0の勝利に貢献。先制点となったエディン・ジェコへのアシストは、彼がマークを外した瞬間を狙った見事なアシストでした。

長谷部 ジェコの動き出しを見てボールを出すところまではバッチリだったんですけど、本当はもうちょっと前に出して、そのままトラップで前に運んでもらうイメージだったんですよ。でも、相手の足にわずかに当たってコースが変わり、結果的に胸へのボールになりました。あれはジェコの個人技によって生まれたゴールですね。あのクロスをワントラップでたたき込むなんて、普通はあり得ませんから(笑)。


――ジェコは26得点、グラフィチは28得点と、ヴォルフスブルクの2トップで得点ランキングの1、2位を独占しました。優勝出来たのは彼らの得点力によるところも大きいですよね。

長谷部 もちろんです。今シーズンの2人は本当にすごかった。ジェコなんて、昨シーズンは全然大したことなかったんですよ。「もう打たないでくれ!」って思うくらい、バンバン外してましたし。それが今シーズンに入って、右肩上がりどころじゃなく、《垂直上がり》くらいの勢いで成長しましたね。彼の成長を間近で見ていて、「トップレベルの選手はこうやって生まれるんだな」と感じました。ジェコはまだ若い(当時23歳)し、ビッグクラブからの話もあるようなので、もしかしたら来シーズンはチームにはいないかもしれません。実際、彼ならビッグクラブでも絶対にレギュラーを張れると思います。


――今シーズンはUEFAカップでもベスト8まで進出しました。実際に戦ってみて、UEFAカップと国内リーグの違いは感じましたか?

長谷部 他国リーグのチームは、まず戦い方からして全然違いますし、アウェーに行くと環境や雰囲気も全く違う。誇張ではなく、ブンデスリーガとは完全に別ものですね。


――中でもインパクトがあったのは?

長谷部 インパクトで言うなら、ブラガ(ポルトガル)ですね。あそこのスタジアムはすごかったです。メーンスタンドとバックスタンドは普通に観客席があるんですが、ゴール裏は両方ともがけなんですよ。そういう地形を生かして作っているところが、ヨーロッパっぽいなと。当然、日本にはないですし、ドイツにもないので、すごく新鮮でした。


――UEFAカップではサン・シーロでもプレーしました。

長谷部 実は高校(藤枝東高校)時代、サン・シーロでミラノ・ダービーを観戦したことがあるんですよ。2階席から見たんですが、発煙筒もたくさんたかれて、とにかくすごい雰囲気で圧倒されたことを覚えてます。まさか、10年後に自分があそこでプレーすることになるとは、当時は想像すらしませんでしたけど。サン・シーロは、芝の状態が予想以上に良くて、すごくやりやすかったです。イタリアって芝の状態があんまり良くないイメージがあったんですが、あの時のサン・シーロは絨毯のようでした。うちもミランもグループリーグ突破が決まっていたので、試合自体はそれほど熱い展開にはなりませんでしたけど、それでもすごく貴重な経験でしたね。そうそう、試合後、ロナウジーニョと少し話せたんですよ。彼から話し掛けてくれたので、僕も片言のポルトガル語で返しました。一瞬、携帯で2ショットを撮ろうかなと思ったんですが、それはあまりにもミーハー過ぎると思って、やめました(笑)。でも、すごく陽気で良い人でしたね。


――来シーズンは、そのミランとともにチャンピオンズリーグの舞台で戦うことになります。

長谷部 正直、まだ全く実感はないですね。ただ、チャンピオンズリーグという世界最高の舞台で、ビッグクラブと真剣勝負出来るチャンスはそうあることではないので、すごく楽しみです。マンチェスター・ユナイテッドやバルセロナとは、浦和時代に対戦したことがありますが、あれは親善試合だったし、メンバーもベストではなかったですから。


――特にやってみたいチームは?

長谷部 当然、バルセロナとは対戦してみたいです。それから、イングランドのチームともやってみたい。個人的にはプレミアリーグが一番レベルが高いリーグだと思っているので、ぜひやれたらなと。


――イングランドの4強の中では、特にどのチームに思い入れがありますか?

長谷部 (スティーヴン)ジェラードが好きなので、リヴァプールとやれたら最高ですね。


――将来的にはプレミアリーグでプレーしてみたいという気持ちもありますか?

長谷部 今はまだ移籍についてあんまり考えたことがないんですよ。もちろん、イングランドを始め、いろんな国のサッカーを体験したい、いろんな国を見てみたい、という思いはあります。ただ、今はヴォルフスブルクでのことしか考えられないですね。来シーズンに向けて、また新しい選手もたくさん入ってくるだろうし、監督が代わって、当然、レギュラー争いも再びゼロからのスタートですし。まずはここでしっかりとポジションを確保することだけしか考えていないです。


――来シーズンはチャンピオンズリーグだけでなく、シーズン終了後にワールドカップというビッグイベントも控えています。

長谷部 ヴォルフスブルクのチームメートにも、ドイツ代表やブラジル代表に入ってる選手はたくさんいますし、ブンデスリーガでやってる選手も含め、多くの選手がW杯に出てきます。やっぱり、彼らと対戦したら絶対に負けたくない。日本代表として彼らを相手に勝ちたいという気持ちがすごく強いですね。


――そういう感覚は、日本でプレーしている時には味わえなかったものですね。

長谷部 そうですね。Jリーグでプレーしていた時は、他国の選手に知り合いすらいなかったですから。でも、今はたくさんの選手を知ってる。当然、彼らの特徴も分かってますから、必要な情報は日本代表のチームメートにも伝えていきたいと思ってます。


――各国の代表選手とブンデスリーガで対戦していることは、日本代表としてプレーする上でもプラスになりますか?

長谷部 やっぱり、フィジカルや高さで勝負しようと思ったら、どうやっても世界のトップには勝てないと思うんです。(田中マルクス)闘莉王とか(中澤)佑二さんよりヘディングが強いヤツが、ゴロゴロいるわけですから。そう考えると、今の日本代表が目指している「全員攻撃、全員守備」で、自分たちの特長である優れたアジリティーを生かしたサッカーをするという方向性は間違っていない。ブンデスリーガでも、体格の良い選手はスピードのある選手を苦手としていますし、今の方向でもっと完成度を上げていければ、きっと世界のトップが相手でも通用すると思います。


――本大会に向け、日本代表の完成度は着実に上がっていると感じていますか?

長谷部 完成度、成熟度といったものは、確実に上がっていると感じていますが、「ゴールを挙げる」という点に関しては、正直、まだまだだと思います。点を取るためには、チーム全体の完成度を上げることはもちろんですが、それ以上に選手一人ひとりのレベルアップが必要になると思いますので、まずは個々が所属クラブで頑張らないと。とにかく、W杯まであと1年、悔いが残らないように全力でサッカーに取り組んでいきたいと思っています。


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