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2021年05月22日

復活と三冠:ボアテング、浮き沈みの激しいバイエルンでの10年

FC Bayern München
バイエルン・ミュンヘン
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 フィジオセラピストは、筋肉に対してのみならず、内面性に対しても繊細な感覚を持ち合わせているもの。プロサッカー選手にとって非常に近い存在であり、長年に渡って心身ともに選手のことを心得ている、彼らからの意見は大変に貴重だ。先週ジェローム・ボアテングを送別する動画がYouTubeで流れた際、その最後にフィジオのクリスチャン・フーン氏がコメント。「いつでも何か問題があれば、僕たちスタッフチームにいつでも連絡してくれ。いつだって助けになる」という言葉は印象的だった。

 2011年にマンチェスター・シティから、当時22歳という新進気鋭のドイツ代表DFとして加入した同選手だったが、そのストーリーは波乱の幕開けとなった。移籍初年度ではボルシア・ドルトムントへと国内二冠を共に奪われた上に、そのドイツ杯決勝では5失点による完敗。さらにCL決勝では本拠地でチェルシーに劇的な形での敗戦を喫することになる。

 だがその翌年には一転、バイエルンはクラブ史上初となる欧州三冠を達成。さらにノイアー、ミュラー、アラバ、マルティネスらと共に、昨年には2度目となる欧州三冠も味わった。特に最初の三冠時代では、2012年11月3日から2014年12月19日まで、ブンデス史上最長となる56試合連続無敗を記録。それは未だ破られていない記録である。

 そして宿敵ドルトムントを下して優勝を果たしたCL決勝にて、ロッベンの決勝弾へと繋がるボアテングの正確なロングフィードは、長年に渡ってボアテングのトレードマークの1つとなっており、本業のディフェンスに加えてビルドアップの面でも卓越したボアテングは、過去10年間において最高のディフェンダーの1人に数えられるまでに成長。


 76試合に出場したドイツ代表では2014年ブラジル大会で優勝。決勝戦となったアルゼンチン代表戦では、kickerよりマン・オブ・ザ・マッチへと選出。そしてその2年後には、ドイツのスポーツジャーナリストたちから選出されるドイツ年間最優秀選手賞への選出も果たした。だがボアテングの栄光の日々は、ユーロ2016準決勝フランス代表選での再負傷により転換点を迎えることになる。

 特に深刻だった負傷は2016年12月に負った方の負傷であり、その翌年の3月に復帰を果たしたものの、本来の姿に戻るまで非常に長い時間を要することに。そしてそれはクラブとボアテングの間に、わだかまりが芽生え始めた時期でもあった。首脳陣はボアテングのプライベートにおける活動を快く思わず、逆にボアテングはリベリのように、プライベートに何かあってもサポートされ、もっと評価されることを望んでいた。

 そんなボアテングがはじめて去就を口にするのは、2018年夏のことである。当時マンチェスター・ユナイテッドを率いていたモウリーニョ監督が獲得を切望。ボアテング自身は当時トゥヘル監督が率いていたパリ・サンジェルマンへの移籍を希望した。新たに就任したコヴァチ監督からフメルス、ズーレに次ぐ3番手へ降格扱いとなったことに苛立ちを募らせ、シーズン後にチームメイトらが優勝を祝うシーンを子供達と遠くから眺めたその姿は印象的だ。


 2019年夏でも引き続きボアテングには移籍の噂が浮上、長期にわたってユベントスが有力な移籍先と目されていたが、最終的には再び移籍が成立することなく残留。コヴァチ監督の下で苦しい状況が続いていくことになる。しかしそんなボアテングに対して、大きな転換点となったのがフリックACの監督昇格だ。ここで遂に長年のスランプから脱したボアテングは、フィジカル面でも取り戻すことに成功。最終的に6冠獲得を主力選手として果たすことになる。

 バイエルンの2度の三冠達成は、共にボアテングの復活と深い結びつきをもつ。前述のフィジオのフーン氏は、そんなボアテングについて「自分を信じてくれている人が少ない状況の中で、そして自分が深く落ち込んでいる中で、それでも立ち上がり、再び成功を手にするために全てを捧げて取り組んできた。脱帽するしかない。まさに王者だ」と称賛。この言葉にボアテングは、心を打たれた表情を浮かべていた。

 この夏、2019年3月に共に構想外を告げられていたトーマス・ミュラー、そしてマッツ・フメルスがドイツ代表復帰を果たしユーロ2020へと参加する中で、ボアテングは契約満了に伴い10年過ごしたバイエルンを退団。これから新天地を模索していくことになる。その行き先は国外にあるとみられ、おそらくはこれからまだ数年に渡り高いレベルでの戦いを演じていくことができるだろう。もしも何か問題が起こったら?その時に誰に頼るべきか、すでにボアテングはそれをよく知っている。
 


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